原文は教科書で広く読まれる形に整えたもの(本によって語句が少しちがいます)、現代語訳は合格大作戦のオリジナルです。
| 原文 | 現代語訳 | |
|---|---|---|
| 1 | 荒れたる宿の、人目なきに、女のはばかる事あるころにて、つれづれと籠もりゐたるを、ある人、とぶらひたまはんとて、夕月夜のおぼつかなきほどに、忍びて尋ねおはしたるに、 | 荒れはてた家で、人の出入りもない所に、女性が(世間に)遠慮することがあるころで、することもなくひっそりとこもっていたのを、ある人がたずねようとなさって、夕方の月がぼんやりとかすんでいるころに、人目をしのんでおたずねになったところ、 |
| 2 | 犬のことことしくとがむれば、下衆女の出でて、「いづくよりぞ」と言ふに、やがて案内せさせて入りたまひぬ。 | 犬が大げさにほえたてるので、召し使いの女が出て来て、「どちらからですか」と言うので、そのまま取り次ぎをさせて(家の中に)お入りになった。 |
| 3 | 心細げなるありさま、いかで過ぐすらんと、いと心苦し。 | (家の中の)心細そうなようすは、(この女性は)どのようにして暮らしているのだろうと、とても気の毒に思われる。 |
| 4 | あやしき板敷に、しばし立ちたまへるを、もてしづめたるけはひの若やかなるして、「こなたへ」と言ふ人あれば、たてあけ所狭げなる遣戸よりぞ入りたまひぬる。 | 粗末な板敷きの所に、しばらく立っていらっしゃると、落ち着いた感じの若々しい声で、「こちらへ」と言う人がいるので、開け閉めもしにくそうな引き戸から(部屋に)お入りになった。 |
| 5 | 内のさまは、いたくすさまじからず、心にくく、灯はかなたにほのかなれど、もののきらなど見えて、にはかにしもあらぬ匂ひ、いとなつかしう住みなしたり。 | 部屋の中のようすは、それほど殺風景ではなく、奥ゆかしく、灯火は向こうのほうにほのかについているけれど、調度品のつやなども見えて、急にたいたのではない(しみこんだ)香のかおりが、とても心ひかれるように住みこなしている。 |
| 6 | 「門よくさしてよ。雨もぞ降る。御車は門の下に、御供の人はそこそこに」と言へば、「今宵ぞ安きいは寝べかめる」とうちささめくも、忍びたれど、ほどなければ、ほの聞こゆ。 | (家の者が)「門をしっかり閉めてね。雨が降ったら困るから。お車は門の下に、お供の人たちはそこそこに」と言うと、(お供の人たちが)「今夜はゆっくり眠れそうだ」とひそひそ話すのも、声をひそめているけれど、(家が)狭いので、かすかに聞こえる。 |
| 7 | さて、このほどの事ども、こまやかに聞こえたまふに、夜深き鳥も鳴きぬ。 | そうして、(男性が)このごろのことなどを、心をこめてくわしくお話し申し上げなさるうちに、まだ夜の深いうちに鳴く鶏も鳴いた。 |
| 8 | 来し方行く末かけて、まめやかなる御物語に、このたびは鳥も花やかなる声にうちしきれば、明け離るるにやと聞きたまへど、夜深く急ぐべき所のさまにもあらねば、少したゆみたまへるに、 | 昔のことからこれからのことまで、心のこもったお話をしているうちに、今度は鶏もにぎやかな声でしきりに鳴くので、すっかり夜が明けたのだろうかとお聞きになるけれど、まだ暗いうちに急いで帰らなければならない所のようすでもないので、少しのんびりしていらっしゃると、 |
| 9 | 隙白くなれば、忘れがたき事など言ひて、立ち出でたまふに、 | 戸のすき間が白くなってきたので、忘れられないことなどを言って、(家を)お出になると、 |
| 10 | 梢も庭もめづらしく青みわたりたる卯月ばかりのあけぼの、艶にをかしかりしを思し出でて、桂の木の大きなるが隠るるまで、今も見送りたまふとぞ。 | 木々の梢も庭も、目新しいほど一面に青々としている四月ごろの明け方が、優美で趣深かったのを思い出しなさって、(その家のあたりを通るときは)大きな桂の木が見えなくなるまで、今でも振り返ってご覧になるということだ。 |


