原文は國民文庫本をもとに教科書の形に整えたもの、現代語訳は合格大作戦のオリジナルです。
| 原文 | 現代語訳 | |
|---|---|---|
| 1 | 世界の男、あてなるも、いやしきも、「いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがな」と、音に聞きめでて惑ふ。 | 世の中の男たちは、身分の高い者も低い者も、「なんとかしてこのかぐや姫を手に入れたいものだ、妻にしたいものだ」と、うわさに聞いて心ひかれ、夢中になっている。 |
| 2 | そのあたりの垣にも、家のとにも、をる人だに、たはやすく見るまじきものを、夜は安きいも寝ず、闇の夜に出でても穴をくじり、ここかしこよりのぞき、垣間見、惑ひあへり。 | そのそばの垣根にも家の戸口にもいる人でさえ、たやすくは(かぐや姫を)見られないのに、(男たちは)夜も安心して眠らず、闇夜に出かけてまで垣根に穴をあけて、あちこちからのぞき、すき間から見ようと、みんなで夢中になっている。 |
| 3 | さる時よりなむ、「よばひ」とは言ひける。 | そのときから、(求婚することを)「よばひ」と言うようになった。 |
| 4 | 人の物ともせぬ所に惑ひありけども、何のしるしあるべくも見えず。家の人どもに物をだに言はむとて、言ひかくれども、ことともせず。あたりを離れぬ公達、夜を明かし日を暮らす人、多かり。 | 人が相手にもしないような所まで、うろうろ歩きまわるけれど、何の効き目もありそうに見えない。せめて家の使用人たちに話だけでもしようと声をかけるけれど、相手にもされない。そばを離れない貴公子たちで、(そこで)夜を明かし日を暮らす人が多い。 |
| 5 | おろかなる人は、「ようなきありきは、よしなかりけり」とて、来ずなりにけり。その中に、なほ言ひけるは、色好みといはるるかぎり五人、思ひやむ時なく、夜昼来けり。 | 気持ちの浅い人は、「むだな出歩きはつまらないことだったなあ」と言って、来なくなってしまった。その中で、なおも言い寄り続けたのは、恋の道に熱心だと言われる者ばかり五人で、思いがやむ時もなく、夜も昼もやって来た。 |
| 6 | その名ども、石作の皇子、くらもちの皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂足、この人々なりけり。 | その名前は、石作の皇子、くらもちの皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂足、この人たちであった。 |
| 7 | 世の中に多かる人をだに、少しもかたちよしと聞きては、見まほしうする人どもなりければ、かぐや姫を見まほしうて、物も食はず思ひつつ、かの家に行きて、たたずみありきけれど、かひあるべくもあらず。 | 世の中にたくさんいる(ふつうの)女性でさえ、少しでも顔立ちがよいと聞けば会いたがる人たちだったので、かぐや姫に会いたくて、食事もとらずに思い続け、あの家に行って、立ちつくしたり歩きまわったりしたけれど、効き目がありそうにもない。 |
| 8 | 文を書きてやれども、返りごともせず。わび歌など書きてやれども、返しもせず。「かひなし」と思へども、霜月・師走の降り凍り、水無月の照りはたたくにも障らず来けり。 | 手紙を書いて送っても、返事もしない。恋の苦しさを詠んだ歌などを書いて送っても、返歌もしない。「むだだ」と思うけれど、十一月・十二月の雪が降り氷が張る寒さにも、六月の日がかんかん照りつける暑さにも負けずにやって来た。 |
| 9 | この人々、ある時は竹取を呼び出でて、「娘を我にたべ」と伏し拝み、手をすりのたまへど、「おのがなさぬ子なれば、心にも従はずなむある」と言ひて、月日を過ぐす。 | この人たちは、ある時は竹取の翁を呼び出して、「娘をわたしにください」と伏して拝み、手をすり合わせて頼みなさるけれど、(翁は)「自分が生ませた子ではないので、思うようにもならないのです」と言って、月日を過ごす。 |
| 10 | かかれば、この人々、家に帰りて物を思ひ、祈りをし、願を立て、思ひやめむとすれども、やむべくもあらず。「さりとも、つひに男あはせざらむやは」と思ひて、頼みをかけたり。あながちに心ざしを見えありく。 | こうなので、この人たちは、家に帰って物思いにふけり、神仏に祈り、願を立てて、(恋を)あきらめようとするけれど、あきらめられそうにもない。「そうはいっても、最後までだれとも結婚させないなんてことがあろうか(いつかは結婚させるはずだ)」と思って、期待をかけている。むりにでも熱意を見せて歩きまわる。 |
| 11 | これを見つけて、翁、かぐや姫に言ふやう、「我が子の仏、変化の人と申しながら、ここら大きさまで養ひたてまつる心ざしおろかならず。翁の申さむこと、聞きたまひてむや」と言へば、 | これを見て、翁がかぐや姫に言うことには、「わが子の仏さま、(あなたは)神仏が姿を変えて現れた人だとは申しながらも、こんなに大きくなるまでお育て申し上げたわたしの気持ちは、並たいていではありません。翁の申し上げることを、聞いてくださるでしょうか」と言うと、 |
| 12 | かぐや姫、「何ごとをか、のたまはむことを承らざらむ。変化の者にてはべりけむ身とも知らず、親とこそ思ひたてまつれ」と言へば、翁、「うれしくものたまふものかな」と言ふ。 | かぐや姫は「どんなことでも、おっしゃることをお聞きしないことがありましょうか(何でもお聞きします)。(自分が)神仏の化身だったという身の上とも知らず、(あなたを本当の)親とばかり思い申し上げております」と言うと、翁は「うれしいことをおっしゃるものだなあ」と言う。 |
| 13 | 「翁、年七十に余りぬ。今日とも明日とも知らず。この世の人は、男は女にあふことをす。女は男にあふことをす。その後なむ門も広くなりはべる。いかでかさることなくてはおはしまさむ」。 | 「翁は年が七十を越えました。(命は)今日終わるか明日終わるかもわかりません。この世の人は、男は女と結婚し、女は男と結婚するものです。そうしてこそ一族も栄えるのです。どうして結婚しないままでいらっしゃれましょうか(いや、そうはいきません)」。 |
| 14 | かぐや姫のいはく、「なんでふ、さることかしはべらむ」と言へば、「変化の人といふとも、女の身持ちたまへり。翁のあらむかぎりは、かうてもいますかりなむかし。この人々の年月を経て、かうのみいましつつのたまふことを思ひ定めて、一人一人にあひたてまつりたまひね」と言へば、 | かぐや姫が「どうしてそんなこと(結婚)をいたしましょうか」と言うと、(翁は)「神仏の化身といっても、女の身をお持ちです。翁が生きている間は、このままでもいらっしゃれるでしょうよ。(でも)この人たちが長い年月、こうして通っていらっしゃってはおっしゃることをよく考えて決めて、(そのうちの)お一人と結婚申し上げなさい」と言うと、 |
| 15 | かぐや姫いはく、「よくもあらぬかたちを、深き心も知らで、あだ心つきなば、のち悔しきこともあるべきをと思ふばかりなり。世のかしこき人なりとも、深き心ざしを知らでは、あひがたしとなむ思ふ」と言ふ。 | かぐや姫が言うことには、「たいして美しくもない顔なのに、(相手の)深い気持ちも知らないで(結婚して)、(相手に)浮気心が起きたら、あとで悔しい思いをすることもあるだろうに、と思うだけです。世間で立派な人であっても、深い愛情を確かめないでは、結婚しにくいと思うのです」と言う。 |
| 16 | 翁いはく、「思ひのごとくものたまふかな。そもそもいかやうなる心ざしあらむ人にかあはむと思す。かばかり心ざしおろかならぬ人々にこそあめれ」。 | 翁が言うことには、「(わたしの)思っていたとおりのことをおっしゃるなあ。いったいどのような愛情を持っている人と結婚しようとお思いなのか。(あの人たちは)これほど気持ちの深い人たちであるようですよ」。 |
| 17 | かぐや姫のいはく、「なにばかりの深きをか見むと言はむ。いささかのことなり。人の心ざし等しかなり。いかでか中に劣りまさりは知らむ。五人の中に、ゆかしき物を見せたまへらむに、御心ざしまさりたりとて、仕うまつらむと、そのおはすらむ人々に申したまへ」と言ふ。「よきことなり」と承けつ。 | かぐや姫が言うことには、「どれほど深い愛情を見たいと言うのでしょう(大したことではありません)。ほんの少しのことです。(五人の)愛情は同じくらいであるようです。どうしてその中で優劣がわかりましょうか。五人の中で、わたしが見たいと思う物を見せてくださった方に、お気持ちがまさっているとして、お仕えしましょう、と、そこにいらっしゃる人たちに申し上げてください」と言う。(翁は)「よいことだ」と引き受けた。 |
| 18 | 日暮るるほど、例の集まりぬ。あるいは笛を吹き、あるいは歌をうたひ、あるいは唱歌をし、あるいはうそを吹き、扇を鳴らしなどするに、翁出でていはく、「かたじけなくも、きたなげなる所に、年月を経て物したまふこと、きはまりたるかしこまりを申す。 | 日が暮れるころ、(五人は)いつものように集まった。ある人は笛を吹き、ある人は歌をうたい、ある人は楽譜を口ずさみ、ある人は口笛を吹き、扇を鳴らしたりしていると、翁が出てきて言うことには、「もったいなくも、このようなむさくるしい所に、長い年月通っていらっしゃることは、この上なく恐れ多いことと申し上げます。 |
| 19 | 『翁の命、今日明日とも知らぬを、かくのたまふ君達にも、よく思ひ定めて仕うまつれ』と申せば、『深き御心を知らでは』となむ申す。さ申すもことわりなり。『いづれも劣りまさりおはしまさねば、ゆかしき物を見せたまへらむに、御心ざしのほどは見ゆべし。仕うまつらむことは、それになむ定むべき』と言ふ。これよきことなり。人の恨みもあるまじ」と言へば、五人の人々も「よきことなり」と言へば、翁入りて言ふ。 | 『翁の命は今日か明日かもわからないのだから、このように(求婚の言葉を)おっしゃる貴公子たちと、よく考えて決めて結婚してお仕えしなさい』と申しますと、『深いお気持ちを知らないでは(結婚できません)』と申します。そう申すのももっともです。『どなたも優劣がおありにならないので、見たい物を見せてくださった方に、お気持ちの深さはわかるはずです。お仕えすることは、それによって決めましょう』と言います。これはよい方法です。だれの恨みも残らないでしょう」と言うと、五人の人たちも「よいことだ」と言うので、翁は(家の)中に入って(かぐや姫に)伝える。 |
| 20 | かぐや姫、石作の皇子には、「天竺に仏の御石の鉢といふ物あり。それを取りて賜へ」と言ふ。くらもちの皇子には、「東の海に蓬莱といふ山あなり。それに銀を根とし、金を茎とし、白き玉を実として立てる木あり。それ一枝折りて賜はらむ」と言ふ。今一人には、「唐土にある火鼠の皮衣を賜へ」。大伴の大納言には、「竜の首に五色に光る玉あり。それを取りて賜へ」。石上の中納言には、「燕の持たる子安の貝、一つ取りて賜へ」と言ふ。 | かぐや姫は、石作の皇子には「天竺(インド)に仏の御石の鉢という物があります。それを取ってきてください」と言う。くらもちの皇子には「東の海に蓬莱という山があるそうです。そこに銀を根とし、金を茎とし、白い玉を実として立っている木があります。その一枝を折っていただきましょう」と言う。もう一人(阿倍の右大臣)には「唐(中国)にある火ねずみの皮でできた着物をください」。大伴の大納言には「竜の首に五色に光る玉があります。それを取ってきてください」。石上の中納言には「燕が持っている子安貝を一つ取ってきてください」と言う。 |
| 21 | 翁、「難きことどもにこそあなれ。この国にある物にもあらず。かく難きことをば、いかに申さむ」と言ふ。かぐや姫、「何か難からむ」と言へば、翁、「とまれかくまれ申さむ」とて、出でて、「かくなむ。聞こゆるやうに見せたまへ」と言へば、 | 翁は「難しいことばかりであるようだ。この国にある物でもない。こんな難しいことを、どう申し上げたらよいだろう」と言う。かぐや姫は「何が難しいことがありましょう」と言うので、翁は「とにかく申し上げよう」と言って、出ていって「このようなことです。(姫が)申し上げるとおりに見せてください」と言うと、 |
| 22 | 皇子たち・上達部聞きて、「おいらかに、『あたりよりだにな歩きそ』とやはのたまはぬ」と言ひて、うんじて、皆帰りぬ。 | 皇子や上達部たちはそれを聞いて、「(それなら)すなおに『このあたりを歩くことさえするな』と、どうしておっしゃらないのか」と言って、うんざりして、みな帰ってしまった。 |


