枕草子「はしたなきもの」原文と現代語訳(印刷用・A4)

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原文は教科書で広く読まれる形(三巻本系)に整えたもの(本によって語句が少しちがいます)、現代語訳は合格大作戦のオリジナルです。

原文現代語訳
1はしたなきもの。異人を呼ぶに、我ぞとさし出でたる。物などとらするをりはいとど。きまりが悪いもの。ほかの人を呼んでいるのに、自分のことだと思って顔を出してしまったとき。何かをくれる(ごほうびを渡す)ときは、なおさらきまりが悪い。
2おのづから人の上などうち言ひそしりたるに、幼き子どもの聞き取りて、その人のあるに言ひ出でたる。たまたま人のうわさなどをして悪口を言っていたのを、小さな子どもが聞き覚えていて、その本人がいる前で言い出してしまったとき。
3あはれなることなど人の言ひ出で、うち泣きなどするに、げにいとあはれなりなど聞きながら、涙のつと出で来ぬ、いとはしたなし。しみじみと悲しい話などを人が話し出して泣いたりするときに、本当にとても気の毒だと思って聞いているのに、涙がすっと出てこないのは、とてもきまりが悪い。
4泣き顔つくり、けしきことになせど、いとかひなし。めでたきことを見聞くには、まづただ出で来にぞ出で来る。泣き顔をつくり、表情を特別に(悲しそうに)してみても、まったくききめがない。ところが、すばらしいことを見たり聞いたりしたときには、真っ先にただもう涙が出てきてしまう。
5八幡の行幸の還らせたまふに、女院の御桟敷のあなたに御輿とどめて、御消息申させたまふ、世に知らずいみじきに、まことにこぼるばかり、化粧じたる顔みなあらはれて、いかに見苦しからむ。(一条天皇が)石清水八幡宮への行幸からお帰りになるときに、女院(帝の母君)の見物席の向こうに御輿を止めて、ごあいさつを申し上げなさった。それが世にまたとないほどすばらしいので、本当に涙がこぼれるほどで、化粧をした顔もすっかり(涙で)はげてしまって、どんなに見苦しかったことだろう。
6宣旨の御使にて、斉信の宰相中将の、御桟敷へ参りたまひしこそ、いとをかしう見えしか。帝のお言葉を伝えるお使いとして、斉信の宰相中将が、(女院の)見物席へ参上なさったのは、とてもすてきに見えた。
7ただ随身四人、いみじう装束きたる、馬副の細く白く仕立てたるばかりして、二条の大路の広く清げなるに、めでたき馬をうち早めて急ぎ参りて、少し遠くより下りて、そばの御簾の前にさぶらひたまひしなど、いとをかし。ただ随身を四人、とても美しく着飾らせ、馬の口取りもすらりと白く装わせただけで、二条大路の広くきれいな所を、りっぱな馬を急がせて急いで参上して、少し離れた所から馬を下りて、そばの御簾の前にお控えになったところなど、とてもすてきだ。
8御返り承りて、また帰り参りて、御輿のもとにて奏したまふほどなど、言ふもおろかなり。(女院の)お返事をうかがって、また帰って参上し、御輿のそばで(帝に)申し上げなさるようすなどは、言葉ではとても言い尽くせない。
9さて、渡らせたまふを見たてまつらせたまふらむ女院の御心、思ひやりまゐらするは、飛び立ちぬべくこそおぼえしか。そうして(帝が)お通りになるのを見申し上げていらっしゃるだろう女院のお気持ちを、思いやり申し上げると、(うれしさで)飛び上がってしまいそうなほどに思われた。
10それには、長泣きをして笑はるるぞかし。そういうときには、(わたしは)長泣きをして、人に笑われるのですよ。
11よろしき際の人だに、なほ子のよきはいとめでたきものを、かくだに思ひまゐらするもかしこしや。ふつうの身分の人でさえ、やはり子どもがりっぱなのはとてもすばらしいものなのに(まして帝の母である女院はどれほどか)。こんなふうに(女院のお気持ちを)想像申し上げることさえ、おそれ多いことだよ。