- 歌
- かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
- 意味
- こんなにもあなたを恋しく思っていると、それだけでも言うことができないのですから、伊吹山のさしも草(もぐさ)が燃えるように、私の燃える思いを、それほどまでとはあなたは知らないでしょうね。
- 作者
- 藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)
- 出典
- 『後拾遺和歌集』恋一・612番
- 決まり字
- 「かく」(2字決まり)

かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを
読みかくとだに えやはいぶきの さしもぐさ
さしもしらじな もゆるおもいを
歴史的仮名遣いかくとだに えやはいぶきの さしもぐさ
さしもしらじな もゆるおもひを
これほど恋しいとさえ言えずにいるのだから、伊吹山のさしも草のように燃えるこの思いを、あなたは知らないでしょう——掛詞と縁語をちりばめた藤原実方の恋の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| かくとだに | かくとだに | 「こうだとだけでも」。「だに」は「〜だけでも」の意味の副助詞です。 |
| えやはいぶき | えやはいぶき | 「えやは言ふ(言えようか、いや言えない)」と地名「伊吹(山)」の掛詞です。 |
| さしも草 | さしもぐさ | お灸に使う「もぐさ」の原料のヨモギ。伊吹山の名産です。 |
| さしも知らじな | さしもしらじな | 「それほどとは知らないでしょうね」。「じ」は打消推量、「な」は念押しです。 |
| 燃ゆる思ひ | もゆるおもい | 燃えるような恋心。「思ひ」の「ひ」に「火」を掛けています。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| かく | 副詞 | こう |
| と | 格助詞 | |
| だに | 副助詞 | 類推・最小限「〜だけでも」 |
| え | 副詞 | (反語と呼応して)〜できない |
| や | 係助詞 | 反語 |
| は | 係助詞 | |
| いぶき | 動詞「言ふ」連体形+名詞「伊吹」 | 掛詞 |
| の | 格助詞 | |
| さしも草 | 名詞 | |
| さしも | 副詞 | それほど |
| 知ら | 動詞・ラ行四段「知る」未然形 | |
| じ | 助動詞「じ」終止形 | 打消推量 |
| な | 終助詞 | 念押し |
| 燃ゆる | 動詞・ヤ行下二段「燃ゆ」連体形 | |
| 思ひ | 名詞 | 掛詞(思ひ/火) |
| を | 格助詞 |
表現技法・文法のポイント
「いぶき(言ふ/伊吹)」と「思ひ(思い/火)」。
「さしも草」「燃ゆる」「火」は、お灸に関係する言葉でつながっています。
「伊吹のさしも草」が、同じ音の「さしも(それほど)」を導く序詞です。
「燃ゆる思ひを」が後ろに回っています。
歌の背景・鑑賞
『後拾遺和歌集』恋一に入っています。詞書には、女性に初めて恋心を打ち明けた歌とあります。言いたくても言えなかった思いを、技巧をこらした歌に込めて、ついに伝えた一首です。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
実方は、一条天皇の前で藤原行成と歌について口論になり、怒って行成の冠を奪って投げ捨てたため、天皇に「歌枕を見てまいれ」と言われて陸奥へ左遷された、という有名な伝説があります。冷静に対応した行成は、その後出世したといわれます。
実方は陸奥で亡くなりましたが、都に帰りたい思いから魂が雀になって飛んでいき、宮中の台盤所の米をついばんだ――という「入内雀(にゅうないすずめ)」の伝説があります。京都の寺には実方をしのぶ雀塚も伝わっています。
実方は清少納言と親しく、恋人だったともいわれます。『枕草子』にも実方の名前が出てきます。この歌の「燃ゆる思ひ」の相手が誰だったのか、想像がふくらみます。
作者:藤原実方朝臣
平安時代中期の貴族・歌人、藤原実方(ふじわらのさねかた)です。歌の才能と華やかな人柄で知られ、清少納言(62番)とも親しい関係だったといわれます。左近衛中将まで昇りましたが、突然陸奥守に任じられて遠い東北へ下り、その地で亡くなりました。中古三十六歌仙の一人です。
決まり字と覚え方
上の句が「かく」まで読まれたら、取り札が決まります。「か」で始まる歌は4首あります。
覚え方:「かく」と聞いたら「さしもしらじな」。書く(かく)ことさえできない、さしも(それほど)知らない、と覚えます。「か」で始まる歌は4首あるので、2字目の「く」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 掛詞・縁語・序詞の組み合わせ
- 副助詞「だに」(〜だけでも)
- 「え〜や」の反語(〜できようか)
- 打消推量「じ」
よくある質問
「えやはいぶき」の掛詞とは?
「えやは言ふ(言えようか、いや言えない)」と地名の「伊吹」を掛けています。
「さしも草」とは何ですか?
お灸に使うもぐさの原料となるヨモギです。伊吹山の名産でした。
藤原実方はなぜ陸奥へ行ったのですか?
陸奥守に任じられたためです。宮中で藤原行成とけんかをしたためだという伝説もあります。
あわせて読みたい
- 62番「夜をこめて」(清少納言・雑)
- 48番「風をいたみ」(源重之・恋)
- 52番「明けぬれば」(藤原道信朝臣・恋)
- 55番「滝の音は」(大納言公任・雑)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
